レンテン族
レンテンの村には、数戸の家で形成される集落が点々と在る。
くねくねと雨でぬかるんだ泥を避けながら、各集落を訪れる。
いくつかの家庭で生地を見せていただいた。
家の奥からたくさんの生地をひっぱり出して、玄関先に広げていると、通りがかりの人も、それを聞きつけた近所の人も「うちにもあるよ」と家から生地を持ってやってくる。
みんなは、それぞれの生地を見比べながら「うちの織りはどうだ」とか「うちの染めはこうだ」とか、言葉がわからないけど、たぶんそんな感じの話で盛り上がる。
なるほど、たしかに各家庭で仕上がりがまったく違う。
特に驚いたのは、そのインディゴブルーが日光に照らされたとき、光沢を帯びたようになるものと、光を吸収してしまうかのように深い藍になるものがあり、レンテンブルーと呼ばれる所以がその一瞬でわかったような、そんな気がした。
使い込まれた生地の色の落ちかたもやっぱりいい。
僕が訪問した雨季の始まりは、ちょうど藍の収穫が始まる時期で、山から大量の藍を背負った女の人が下りてきたり、そこかしこで大きな桶が置かれ、出がらしの藍が捨てられていた。
レンテン族の染色について、興味深い話がある。
「小さな紙切れを藍染めの桶に浸しておくと幸運がもたらされる」
「藍のにおいは、蛇や毒虫を寄せつけない」
「もし家族の誰かが亡くなると、埋葬が終わるまで、染色の仕事はできない」
「妊娠している女性は、藍の発酵を妨げるかもしれないので、藍の桶に近づいてはならない」
「藍の発酵を阻止させるかもしれないので、桶の近くでは、どんな悪口も言ってはならない」
これらの話からも、レンテンの人たちにとって、藍染めの生地をつくることがどれほど大切なのかがわかる。
効率や物理的な考えもよいけど、土地や民族の間で脈々と受け継がれる、目には見えないしきたりや伝統には、意味や理解を越えた(もしくは意味や理解とは異なる種類の)大切なものがあるのだろう。
男の人は明るい青、女の人は濃い藍、身体にぴったりサイズの見惚れるほどの衣装。
それが彼らの服。